陰関数定理と曲線曲面
— 島根大学総合理工学部集中講義 —
田崎博之
2006年度
(2006年7月18日 – 21日)
i
はしがき
この集中講義では陰関数定理と曲線曲面の関連について解説します。まず陰関 数定理を復習します。陰関数定理は存在定理の一つです。存在定理の存在意義は なんですかというのは、しばしば学生から受ける質問です。特に陰関数定理の場 合は陰関数の存在が何を意味しているのかわかりにくいかもしれません。陰関数 定理が何を主張しているのかわかりやすい解説を試みます。陰関数定理の仮定は 偏微分に関するものなので、その前に二変数と三変数の微分も復習しておきます。
次に陰関数定理が曲線や曲面の定義において基本的な考え方を与えることを示し ます。曲線や曲面には関数が一定値をとる点の集まりとして表示する方法と、パラ メータを使って表示する方法があります。関数が一定値をとる点の集まりとして 表示されている曲線や曲面が、パラメータを使った表示も持つということを示す ときに、陰関数定理が重要になります。陰関数定理は陰関数の存在を保証していま すが、陰関数がどのような関数であるかについては明らかにしていません。その ため、陰関数を利用して具体的な計算をしようとする場合に問題が生じます。陰 関数そのものが必要ではなく、陰関数の微分が必要な場合は陰関数定理を利用し て具体的な計算をすることが可能になります。陰関数定理の主張には陰関数の微 分が元の関数の微分を使って表現できることも含まれています。このことを利用 して、関数が一定値をとる点の集まりとして定義された曲線や曲面の曲率が計算 できることも解説します。この曲率の計算では、公式を導く計算の途中で陰関数 を利用しますが、最終的な曲率の公式には陰関数は姿を現わさないので、陰関数 は名前のとおりの働きをしていることになります。
目 次
はしがき . . . . i
第1章 陰関数定理 1 1.1 二変数関数の微分 . . . . 1
1.2 三変数関数の微分 . . . . 6
1.3 陰関数定理 . . . . 8
1.4 二階微分 . . . . 13
第2章 曲線 17 2.1 平面曲線の概念 . . . . 17
2.2 平面曲線の曲率 . . . . 23
第3章 曲面 34 3.1 空間内の曲面の概念 . . . . 34
3.2 曲面の曲率 . . . . 40
1
第
1章 陰関数定理
1.1 二変数関数の微分
この節では一変数関数の微分を復習し、二変数関数の微分の意味を考える。一 変数関数の微分の定義は微分係数として最初は与えられるが、局所的な一次関数 による最良近似とみることもできる。いずれにしても、一変数関数の微分は関数 の局所的な増加減少の度合を表現している。これに対して二変数関数の場合は一 変数の場合と異なり定義域に色々な方向があるので、単純に増加減少を考えるこ とはできない。しかし、一次関数による近似を考えることはできる。この一次関 数の定数項を除いた線形な部分が二変数関数の微分であり、全微分とも呼ばれて いる。この微分を線形写像とみなすということで、多変数の場合の微分を曖昧な 言い方をしないで表現できる。
一変数関数の微分の復習から始めよう。実数の開区間Iで定義された関数f(x) に対して、x0 ∈Iにおいて極限
lim
h→0
f(x0+h)−f(x0) h
が存在するときに、fはx0において微分可能といい、上の極限をfのx0における 微分係数と呼ぶ。この極限は関数の変化率の極限になっているので、関数の局所 的な増減を表わしているとみることもできる。f のx0における微分係数は次のよ うな記号で表わされる。
f0(x0), df
dx(x0), df dx
¯¯
¯¯
x=x0
, df(x) dx
¯¯
¯¯
x=x0
, d
dx
¯¯
¯¯
x=x0
f(x).
この値が上の極限の極限値になっているということは、任意のε > 0に対してあ るδ >0が存在し
0<|h|< δ ⇒
¯¯
¯¯
f(x0+h)−f(x0)
h −f0(x0)
¯¯
¯¯≤ε が成り立つということである。最後の不等式は
ε≥
¯¯
¯¯
f(x0+h)−f(x0)
h −f0(x0)
¯¯
¯¯=
¯¯
¯¯
f(x0+h)−(f(x0) +f0(x0)h) h
¯¯
¯¯
となる。二変数の場合を扱うときにはhで割るという操作はできないので、上の 不等式を
|f(x0+h)−(f(x0) +f0(x0)h)| ≤ε|h|
という形に変形する。後で示すようにこの不等式の形は二変数のときにも考える ことができる。hが0<|h| < δの範囲を動くとき、hの一次関数f(x0) +f0(x0)h はhの関数f(x0+h)の近似になっている。変数をx = x0 +hと表わすと、xが 0<|x−x0|< δの範囲を動くとき、xの一次関数f(x0) +f0(x0)(x−x0)はxの関 数f(x)の近似になっている。
x0の近傍でf が増加の状態にあることとf0(x0)が正であることは同値であり、
x0の近傍でfが減少の状態にあることとf0(x0)が負であることは同値である。つ まり、f0(x0)6= 0ならば、x0の近傍でのfの増加・減少の状態は傾きf0(x0)の一 次関数の増加・減少の状態で決定されていることになる。f0(x0) = 0の場合は、後 で関数の二階微分を考察する際に扱う。
以上の一変数関数の微分をふまえて二変数関数の微分について考えよう。平面 R2の開集合Dで定義された関数f(x, y)に対して、この関数の(x0, y0) ∈ Dにお ける変化を知るために、まず一変数に制限して微分する。平面ベクトル(u, v)をと ると
t7→f((x0, y0) +t(u, v)) = f(x0+tu, y0+tv) は一変数関数になる。この一変数関数の微分係数
d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+tu, y0+tv)
がすべての平面ベクトル(u, v)について存在する場合に、それらをすべて集めたも のは関数f(x, y)の(x0, y0)におけるすべての方向に関する変化を表わしていると 考えることができる。そこで、平面ベクトルに対してその方向の関数の微分係数 を対応させる写像
R2 →R; (u, v)7→ d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+tu, y0+tv)
をfの(x0, y0)における微分として扱うことを考える。この写像をdf(x0,y0)と表わ すことにすると、
df(x0,y0)(u, v) = d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+tu, y0+tv)
となる。このR2からRへの写像df(x0,y0)の性質を調べてみよう。実数sに対して、
一変数関数の合成関数の微分の公式を使うと df(x0,y0)(s(u, v)) = d
dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+tsu, y0+tsv) =s d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+tu, y0+tv)
= sdf(x0,y0)(u, v)
1.1. 二変数関数の微分 3 となるので、
df(x0,y0)(s(u, v)) =sdf(x0,y0)(u, v)
が成り立つ。これはスカラー倍と写像df(x0,y0)の作用が可換になることを示してい る。この性質は線形写像の条件の一つである。そこで、一変数関数の場合と比較 して同等になるように、一次関数すなわち定数項と線形写像の和によって関数を 近似し、この線形写像を関数の微分と定義する。その定義をするために
k(u, v)k= (u2+v2)1/2 ((u, v)∈R2) によってR2におけるノルムk · kを定める。
定義 1.1.1 f(x, y)を平面R2の開集合Dで定義された関数とする。(x0, y0) ∈ D をとる。ある線形写像φ :R2 →Rが存在し、任意のε >0に対してあるδ >0が 存在しh∈R2に対して
0<khk< δ ⇒ |f((x0, y0) +h)−(f(x0, y0) +φ(h))| ≤εkhk
が成り立つときに、fは(x0, y0)において微分可能といい、線形写像φをfの(x0, y0) における微分と呼ぶ。1
注意 1.1.2 上の定義の線形写像φは存在すれば一意的であることがわかる。それ を示すために、線形写像φが先に定めた
df(x0,y0):R2 →R; (u, v)7→ d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0 +tu, y0+tv)
と一致することを示す。任意のε > 0に対してあるδ > 0が存在しh ∈ R2に対 して
0<khk< δ ⇒ |f((x0, y0) +h)−(f(x0, y0) +φ(h))| ≤εkhk
が成り立つ。(u, v)∈R2に対してkt(u, v)k< δとなるt∈ Rをとり、上の不等式 にh=t(u, v)を代入すると、
|f((x0, y0) +t(u, v))−(f(x0, y0) +φ(t(u, v)))| ≤εkt(u, v)k が成り立つ。この不等式は
|f(x0+tu, y0+tv)−f(x0, y0)−tφ(u, v)| ≤εkt(u, v)k=ε|t| · k(u, v)k となり、t6= 0のとき
¯¯
¯¯
f(x0+tu, y0+tv)−f(x0, y0)
t −φ(u, v)
¯¯
¯¯≤εk(u, v)k
1偏微分と区別するために、fは(x0, y0)において全微分可能といい、線形写像φをfの(x0, y0) における全微分と呼ぶこともあるが、ここでは単に微分可能と微分という言葉を使うことにする。
となる。したがって、
d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+tu, y0+tv) = lim
t→0
f(x0+tu, y0+tv)−f(x0, y0)
t =φ(u, v)
を得る。つまり、先に考察した各ベクトルの方向にfを微分して得られる写像は線 形写像φに一致する。上の考察は、どの(u, v)に対してもtの関数f(x0+tu, y0+tv) はt= 0で微分可能になることも示している。
変数を(x, y) = (x0, y0) + (u, v)と表わすと、(x, y)が0<k(x, y)−(x0, y0)k< δ の範囲を動くとき、(x, y)の一次関数f(x0, y0) +φ(x−x0, y−y0)は(x, y)の関数
f(x, y)の近似になっている。
この線形写像df(x0,y0)の表現行列を求めてみよう。
df(x0,y0)(1,0) = d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+t, y0) = ∂f
∂x(x0, y0), df(x0,y0)(0,1) = d
dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0, y0+t) = ∂f
∂y(x0, y0) となるので、線形写像df(x0,y0)の基底(1,0),(0,1)に関する表現行列は
·∂f
∂x(x0, y0), ∂f
∂y(x0, y0)
¸
になる。上の考察は、f は(x0, y0)で偏微分可能であることも示している。
R2のx成分を対応させる関数をxと書くことにすると、xはR2全体で定義さ れた関数になる。x :R2 →R自身が線形写像なので、微分はどの点でもdx = x になる。この等式の左辺は関数xの微分であり、右辺は線形写像xである。上の 関数の微分の表現行列を使うと
df(x0,y0)(u, v) = ∂f
∂x(x0, y0)u+∂f
∂y(x0, y0)v
= ∂f
∂x(x0, y0)dx(x0,y0)(u, v) + ∂f
∂y(x0, y0)dy(x0,y0)(u, v)
= µ∂f
∂x(x0, y0)dx(x0,y0)+ ∂f
∂y(x0, y0)dy(x0,y0)
¶ (u, v) となるので、
df(x0,y0) = ∂f
∂x(x0, y0)dx(x0,y0)+ ∂f
∂y(x0, y0)dy(x0,y0) が成り立つ。この等式はfが微分可能な点(x0, y0)で成立するので、
df = ∂f
∂xdx+∂f
∂ydy
1.1. 二変数関数の微分 5 と書くこともできる。つまりこの等式はfの定義域の各点でdf というR2からR への線形写像をx成分とy成分に分解した等式とみなせる。分解したときの係数 に偏微分係数∂f /∂xと∂f /∂yが現われるわけである。
一般に線形写像α:R2 →Rに対して
α(v) = hA,vi (v ∈R2)
によってR2の元Aを定めることができる。関数fの微分dfは定義域の各点(x, y) に対して、線形写像df(x,y) :R2 →Rを対応させている。df(x,y)に対して
df(x,y)(v) =hA,vi (v ∈R2)
によって定まるR2の元Aをgradf(x,y)と表わし、gradfを勾配ベクトル場と呼ぶ。
上で見た
df = ∂f
∂xdx+ ∂f
∂ydy という等式より
gradf = µ∂f
∂x,∂f
∂y
¶
となることがわかる。
二変数関数の合成関数の微分の公式を振り返ってみよう。実数の開区間Iで定 義されたR2に値を持つ関数c= (c1, c2)と、cの像を定義域に含む関数fの合成関 数f ◦cを考える。cとfは共に微分可能であると仮定する。合成関数の微分の公 式とは次の等式である。
d
dt(f◦c) = ∂f
∂x dc1
dt + ∂f
∂y dc2
dt . この等式は、dc/dt= (dc1/dt, dc2/dt)より
d
dt(f ◦c) =df µdc
dt
¶
=
¿
gradf,dc dt
À
となることがわかる。真中は線形写像dfにベクトルdc/dtを代入したものであり、
右辺はgradfとdc/dtとの内積である。これがfの微分dfを線形写像とみたときの 合成関数の微分の公式である。上の等式とCauchy-Schwarzの不等式より、gradf はfの値が最も大きくなる方向であることがわかる。
上記の合成関数の微分の公式より、二変数関数の定義域の曲線上での関数の増 減は、曲線の速度ベクトルを関数の微分に代入することでわかる。関数fの微分 dfpが線形写像として0ではない点pでは、微分の線形写像としての性質が関数の 一点の近傍での増減を決定していることになる。
{X ∈R2 |dfp(X) = 0}
に接する方向についてはこれだけではわからないが、次に述べる陰関数定理を利 用することで、この方向に接する曲線として関数の値が一定になる点の集合が現 われることが明らかになる。dfp = 0の場合は、後で関数の二階微分を考察する際 に扱う。
1.2 三変数関数の微分
この節では三変数関数の微分について考える。二変数関数と同様に扱える部分 は簡単に済ませることにする。
二変数の場合と同様に
k(u, v, w)k= (u2+v2+w2)1/2 ((u, v, w)∈R3) によってR3におけるノルムk · kを定める。
定義 1.2.1 f(x, y, z)を空間R3の開集合Dで定義された関数とする。(x0, y0, z0)∈ Dをとる。ある線形写像φ :R3 →Rが存在し、任意のε > 0に対してあるδ > 0 が存在しh∈R3に対して
0<khk< δ ⇒ |f((x0, y0, z0) +h)−(f(x0, y0, z0) +φ(h))| ≤εkhk
が成り立つときに、fは(x0, y0, z0)において微分可能といい、線形写像φをfの (x0, y0, z0)における微分と呼ぶ。
注意 1.2.2 二変数関数の場合と同様に、上の定義の線形写像φは存在すれば一意 的であることがわかる。それを示すために、線形写像φが
R3 →R; (u, v, w)7→ d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0 +tu, y0+tv, z0+tw)
と一致することを示す。任意のε > 0に対してあるδ > 0が存在しh ∈ R3に対 して
0<khk< δ ⇒ |f((x0, y0, z0) +h)−(f(x0, y0, z0) +φ(h))| ≤εkhk
が成り立つ。(u, v, w)∈R3に対してkt(u, v, w)k< δとなるt∈Rをとり、上の不 等式にh=t(u, v, w)を代入すると、
|f((x0, y0, z0) +t(u, v, w))−(f(x0, y0, z0) +φ(t(u, v, w)))| ≤εkt(u, v, w)k が成り立つ。この不等式は
|f(x0+tu, y0+tv, z0+tw)−f(x0, y0, z0)−tφ(u, v, w)| ≤ εkt(u, v, w)k
= ε|t| · k(u, v, w)k
1.2. 三変数関数の微分 7 となり、t6= 0のとき
¯¯
¯¯
f(x0+tu, y0+tv, z0+tw)−f(x0, y0, z0)
t −φ(u, v, w)
¯¯
¯¯≤εk(u, v, w)k となる。したがって、
d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+tu, y0+tv) = lim
t→0
f(x0+tu, y0+tv)−f(x0, y0)
t =φ(u, v)
を得る。つまり、先に考察した各ベクトルの方向にfを微分して得られる写像は線 形写像φに一致する。上の考察は、どの(u, v)に対してもtの関数f(x0+tu, y0+tv) はt = 0で微分可能になることも示している。
変数を(x, y, z) = (x0, y0, z0) + (u, v, w)と表わすと、(x, y, z)が0<k(x, y, z)− (x0, y0, z0)k< δ の範囲を動くとき、(x, y, z)の一次関数f(x0, y0, z0) +φ(x−x0, y− y0, z−z0)は(x, y, z)の関数f(x, y, z)の近似になっている。
この線形写像df(x0,y0,z0)の表現行列を求めてみよう。
df(x0,y0,z0)(1,0,0) = d dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0+t, y0, z0) = ∂f
∂x(x0, y0, z0), df(x0,y0,z0)(0,1,0) = d
dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0, y0+t, z0) = ∂f
∂y(x0, y0, z0), df(x0,y0,z0)(0,0,1) = d
dt
¯¯
¯¯
t=0
f(x0, y0, z0+t) = ∂f
∂z(x0, y0, z0)
となるので、線形写像df(x0,y0,z0) の基底(1,0,0),(0,1,0),(0,0,1)に関する表現行
列は ·
∂f
∂x(x0, y0, z0), ∂f
∂y(x0, y0, z0), ∂f
∂z(x0, y0, z0)
¸
になる。上の考察は、fは(x0, y0, z0)で偏微分可能であることも示している。
R3のx, y, z成分を対応させる関数をそれぞれx, y, zと書くことにすると、
df = ∂f
∂xdx+ ∂f
∂ydy+∂f
∂zdz
を得る。この等式はfの定義域の各点でdfというR3からRへの線形写像をx成 分、y成分とz成分に分解した等式とみなせる。分解したときの係数に偏微分係数
∂f /∂x、∂f /∂yと∂f /∂zが現われるわけである。
一般に線形写像α:R3 →Rに対して
α(v) = hA,vi (v ∈R3)
によってR3の元Aを定めることができる。関数fの微分dfは定義域の各点(x, y, z) に対して、線形写像df(x,y,z) :R3 →Rを対応させている。df(x,y,z)に対して
df(x,y,z)(v) =hA,vi (v ∈R3)
によって定まるR3の元Aをgradf(x,y,z)と表わし、gradf を勾配ベクトル場と呼 ぶ。上で見た
df = ∂f
∂xdx+∂f
∂ydy+ ∂f
∂zdz という等式より
gradf = µ∂f
∂x,∂f
∂y,∂f
∂z
¶
となることがわかる。
三変数関数の合成関数の微分の公式を振り返ってみよう。実数の開区間Iで定 義されたR3に値を持つ関数c = (c1, c2, c3)と、cの像を定義域に含む関数fの合 成関数f ◦cを考える。cとfは共に微分可能であると仮定する。合成関数の微分 の公式とは次の等式である。
d
dt(f◦c) = ∂f
∂x dc1
dt +∂f
∂y dc2
dt + ∂f
∂z dc3
dt . この等式は、dc/dt= (dc1/dt, dc2/dt, dc3/dt)より
d
dt(f ◦c) = df µdc
dt
¶
=
¿
gradf,dc dt
À
となることがわかる。右辺は線形写像dfにベクトルdc/dtを代入したものである。
これがfの微分dfを線形写像とみたときの合成関数の微分の公式である。この形 で合成関数の微分の公式を書くと、二変数のときと三変数のときの公式の形が全 く同じになる。上記の合成関数の微分の公式より、三変数関数の定義域の曲線上で の関数の増減は、曲線の速度ベクトルを関数の微分に代入することでわかる。関 数fの微分dfpが線形写像として0ではない点pでは、微分の線形写像としての性 質が関数の一点の近傍での増減を決定していることになる。
{X ∈R3 |dfp(X) = 0}
に接する方向についてはこれだけではわからないが、次に述べる陰関数定理を利 用することで、この方向に接する曲面として関数の値が一定になる点の集合が現 われることが明らかになる。
1.3 陰関数定理
一変数関数と二変数関数の大きな違いの一つは、関数が一定の値をとる点の集 まりが離散的なものになるかつながったものになるかである。実数の開区間Iで 定義された一変数関数f(x)が一定の値aをとる点の全体
{x∈I |f(x) = a}
1.3. 陰関数定理 9 は通常Iの離散的な部分集合になる。たとえば
I =R, f(x) = sinx, a= 0 とすると
{x∈R |sinx= 0}=πZ.
これに対して平面R2の開集合Oで定義された二変数関数f(x, y)が一定の値aを とる点の全体
{(x, y)∈O|f(x, y) =a} は通常O内の曲線になる。たとえば
O =R2, f(x, y) = x2+y2, a >0 とすると
{(x, y)∈R2 |x2+y2 =a} は原点中心半径√
aの円になる。このような二変数関数の一定の値をとる点の集 まりを平面曲線の節で考察の対象にしたい。このような点の集まりが曲線と呼ぶ に相応しいかどうか判断する際に、陰関数定理が重要になる。二変数関数の偏微
分を ∂f
∂x(x, y) =fx(x, y), ∂f
∂y(x, y) =fy(x, y) とも書くことにする。
定理 1.3.1 (陰関数定理) 平面R2の開集合Oで定義された二変数関数f(x, y)は Oにおいて微分可能であり、df をOからR2の双対空間(R2)∗への写像とみなし て連続になっていると仮定する。(x0, y0)∈Oにおいて
f(x0, y0) =a, fy(x0, y0)6= 0
ならば、x0を含む開区間IとI上定義された可微分関数g(x)が存在し y0 =g(x0), x∈I ⇒(x, g(x))∈O, f(x, g(x)) = a が成り立つ。さらに、次の等式が成り立つ。
g0(x) =−fx(x, g(x))
fy(x, g(x)) (x∈I).
g(x)をf(x, y) =aから定まる陰関数と呼ぶ。